年金で暮らす高齢者の平均的な年金収入や支出はどのくらいなのでしょう。また、65歳以上の世帯はいくらくらい貯蓄を持っているのでしょう。
多くの方が年金だけでは不足する生活費を貯蓄などでまかなっています。年金生活者の家計収支を知ることで、定年後の生活に必要な額の目安が分かり、老後に必要な貯蓄額を早いうちから想定することが可能になります。
このページでは行政の行った調査に基づき、高齢者世帯の家計収支と貯蓄額について、皆さんに分かりやすくご説明いたします。 (2022年3月更新)
老後を安心に暮らすにはいくら貯蓄が必要?
総務省統計局の令和1年(2019)「家計調査年報」によると二人以上の世帯のうち高齢無職世帯(世帯主が60歳以上の無職世帯)の可処分所得(手取り収入)は、60~64歳の世帯で155,743円と最も低く、65~69歳の世帯は222,688円、70~74歳の世帯は215,311円、75歳以上の世帯は208,394円となっています。
※可処分所得(かしょぶんしょとく)とは、収入から税金や社会保険料などを除いた所得のことで、自由に使える手取り収入のこと。
一方、消費支出をみると、60~64歳の世帯が272,927円と最も高く、 65~69歳271,374円、 70~74歳256,315円、75歳以上が222,574円と、年齢が上がるにつれて低くなり、60~64歳が1番収入が低いにもかかわらず支出が多いということがわかります。
高齢無職世帯の家計収支は以下のグラフの通りです。
夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦二人の無職世帯家計収支
月に必要な生活費は約270,928円。実収入は237,659円、税金や健康保険料控除後の可処分所得(手取り収入)は206,678円。
一方、消費支出は239,947円で、生活費の月額不足分は33,269円です。
(注)「社会保障給付」及び「その他」の割合(%)は,実収入に占める割合。
(注)「食料」から「その他の消費支出」の割合(%)は,消費支出に占める割合。
(注)「消費支出」のうち,他の世帯への贈答品やサービスの支出は,「その他の消費支出」の「うち交際費」に含まれている。
(注)「不足分」とは「実収入」から「消費支出」及び「非消費支出」を差し引いた額。
60歳以上、単身の無職世帯家計収支
月に必要な生活費は151,800円。実収入は124,710円。税金や健康保険料控除後の可処分所得は112,649円。生活費の月額不足分は27,090円です。
(注)「社会保障給付」及び「その他」の割合(%)は,実収入に占める割合。
(注)「食料」から「その他の消費支出」の割合(%)は,消費支出に占める割合。
(注)「消費支出」のうち,他の世帯への贈答品やサービスの支出は,「その他の消費支出」の「うち交際費」に含まれている。
(注)「不足分」とは「実収入」から「消費支出」及び「非消費支出」を差し引いた額。
参照:総務省統計局の令和1年(2019)「家計調査年報(総世帯及び単身世帯の家計収支)」
年金の不足額はいくら?
先に説明した家計収支から、高齢夫婦無職世帯に必要な生活費は月額約27万928円、高齢単身無職世帯は約15万1800円、それぞれの年間の不足額を単純計算してみると、夫婦の場合は約40万、単身の場合は約32万5000円の年間不足額が出ることが見えてきます。
不足額
高齢夫婦無職世帯では、33,269円×12か月=年間399,228円不足
高齢単身無職世帯では、27,090円×12か月=年間325,080円不足
ザクっと計算すると、夫婦の場合は10年で約400万円、20年で約800万円、30年で約1,200万円の不足。単身の場合は10年で約325万円、20年で約650万円、30年で約975万円が不足するということになります。
こちらは厚生年金を受給している場合の数字ですので、厚生年金制度に加入したことのない第1号被保険者(自営業者や学生、無職の人)や第3号被保険者(第2号被保険者に扶養されている人など)は、基礎年金のみの受け取りとなるため、不足額はさらに大きくなります。
上記の不足額に加え、万が一配偶者が介護状態になった場合は、さらに介護のお金も必要となります。
生命保険文化センターの調査によると、世帯主や配偶者が要介護状態となった場合には、介護保険以外で必要とする資金の平均は675万円という調査結果がでています。
安心に老後を過ごすためには、ある程度のまとまった貯蓄額が必要ということが分かります。
高齢者世帯の平均的な貯蓄額はいくら?
次に、月々の生活の不足額を補うのに必要であろう老後の貯蓄額について見てみましょう。
貯蓄の目的については、内閣府の「高齢者の経済状況」によると、「万が一の備えのため」が47.5%でもっとも多く、次いで「普段の生活を維持する」が17.8%となっています。
高齢者世帯の一世帯当たりの平均貯蓄額は1221万6,000円。高齢者世帯の平均貯蓄額の内訳は以下の表の通りです。
「貯蓄がない」が15.1%、「貯蓄がある」は79.4%、貯蓄がある人で1番多いのが3000万円以上10.8%、次いで1000~1500万円の9.5%、500~700万円9.1%と続きます。
※ 高齢者世帯とは、65歳以上のみで構成するか、これに18歳未満の未婚の者が加わった世帯のこと。
貯蓄がない | 15.1% |
50万円未満 | 3.8% | 50~100万円 | 2.6% |
100~200万円 | 7.0% |
200~300万円 | 5.0% | 300~400万円 | 5.3% |
400~500万円 | 2.5% |
500~700万円 | 9.1% | 700~1000万円 | 5.2% |
1000~1500万円 | 9.5% |
1500~2000万円 | 5.6% |
2000~3000万円 | 7.7% |
3000万円以上 | 10.8% |
貯蓄あり額不詳 | 5.3% |
不詳 | 5.5% |
参照:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査の概況(各種世帯の所得等の状況 )
定年前から老後を見据えた資金計画を!
個人差がありますが、一般的に老後に必要なお金は単身の場合1,200万円、夫婦二人の場合2,000万円程度といわれています。今日ご紹介した統計から見て、サラリーマンや公務員など厚生年金の受給者は、いまの年金制度のままいけば、生活費の大半を年金、退職金、貯蓄でまかなえるといえるでしょう。
最近のシニアは元気な方が多く、定年後もアルバイトの仕事を続ける方も多くいらっしゃり、老後資金の不足分を確実に増やすことができます。仕事をしない場合や自営業の方は、貯蓄や資産運用などの対策を練っておくことが大切です。
安心な老後を迎えるためには、老後に必要な資金について情報収集し、年金だけでは不足する月々の生活費をどう補うのかを、定年前から考えておく必要があります。
老後資金作りの方法のひとつとして注目される「iDeco」と「つみたてNISA」を比較しました。
■iDecoとつみたてNISAを徹底比較!老後の資金作りを考える
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(グッドライフシニア編集部 松尾)
出版社勤務後、フリーランスのライターに。「難しいお金のことをわかりやすく」を目指して日々勉強中。保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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