「年金制度はむずかしい」。そんな声をよく耳にします。
しかし、高齢者世帯の収入の約6割が年金であり、約5割の高齢者世帯が年金収入だけで生活しています(厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」)。
年金は高齢者の生活を支えるために不可欠なものとなっているのが現状です。さらに公的年金は、老後だけでなく、誰にでも起こりうる人生のリスクにも備えるものとなっています。
そんな私たちの人生において欠かせない公的年金制度について、分かりやすく解説します。2022年3月最新版
≫1.「人生の3つのリスク」に備える公的年金制度
≫2. 公的年金が「貯金」ではなく「仕送り」だから安心な理由
≫3. 公的年金制度は国民年金と厚生年金の2階建て
≫4. 被保険者の3つの種類と保険料
≫5. もっとも気になる老齢年金の平均月額
≫6. 60~75歳まで自由に選べる受給開始時期
(繰上げ受給・繰下げ受給について)
「人生の3つのリスク」に備える公的年金制度
日本の年金制度には、国民年金や厚生年金といった「公的年金」と、個人や企業が任意で加入する「私的年金」があります。
国が運営する公的年金は、日本に居住している20歳以上60歳未満のすべての人が加入して、老後の生活資金を支える制度です。
公的年金制度には、①老齢年金、②障害年金、③遺族年金の3つがあります。それぞれ①高齢による退職、②障害、③一家の大黒柱の死亡、という人生における3つのリスクに備えるためのものとなっています。
①老齢基礎年金 | 国民年金の加入者であった方の老後の保障として65歳から支給され、年金というのは普通、この老齢年金のことをいいます。保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に支給されます。 |
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②障害基礎年金 | 加入中に病気や怪我などによって障害を負ってしまった場合、現役世代の人も含めて受け取ることができる年金です。 障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。 |
③遺族基礎年金 | 年金受給者、被保険者が亡くなったとき、配偶者または18歳以下の子が給付を受けることができます。遺族基礎年金を受給するためには一定の要件が必要となります。 |
「年金」と聞くと、老後にもらうお金と考える人が多いと思いますが、事故や病気で働けなくなる、大黒柱を若くして亡くす、など、若いときにも起こりうる人生のリスクにも備えるためのものなのです。
「自分は長生きしなさそうだから納めたくない」という人もいますが、年金は老齢以外のリスクに対しても頼りになる制度であることは知っておいてください。
公的年金が「貯金」ではなく「仕送り」だから安心な理由
公的年金制度は、今働いている現役世代が支払った保険料を、国が管理して支給する仕組みをとっています。これを賦課方式といいます。現役世代が力を合わせて「仕送り」をするかたちです。
年金制度はもともと、現役時代に払い込んだお金を積み立てて、本人がそのお金を老後に受け取る積立方式をとっていましたが、徐々に賦課方式に移行しました。自分で保険料を「貯金」したお金を受け取るほうが払いがいがあるように思えますが、賦課方式に変更されたのはどうしてでしょうか。
理由は、主に2つあります。1つ目は、人の寿命は誰にもわからないので、長生きした場合に「貯金」が途中で足りなくなる可能性があることです。
2つ目は、積立方式だと、物価上昇に対応できないことです。例えば、今は1個100円で買えるリンゴが、30年後には1個1000円になっているかもしれません。そうなると、今のお金の価値では30年後の生活に対応できないのです。
公的年金制度は、予測できない未来に対して社会全体で支え合えるしくみとなっています。
公的年金制度は国民年金と厚生年金の2階建て
参照:厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」
日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴をもっており、原則として20歳から60歳未満のすべての国民は「国民年金」に加入することが義務付けられています。このように公的年金制度の基礎となるため、国民年金は基礎年金とも呼ばれます。
そして、サラリーマンや公務員といった被用者を対象にした「厚生年金」というしくみもあります。
厚生年金とは?
企業に勤務している人は厚生年金に加入します。厚生年金は国民年金よりも加入年齢が高くなり、70歳未満まで加入することができます。加入手続きは勤めている企業が行い、保険料は企業と社員とが折半して支払います。
厚生年金保険に加入している人は、国民年金の保険料は自分では納めていません。これは厚生年金保険が加入者の代わりに国民年金を負担しているからで、このような人は国民年金の第2号被保険者になります。
厚生年金保険に加入する際は、企業単位ではなく、事業所単位(本社、支社、支店など)で加入することになっていて、手続きは事業主が行っています。
尚、パートタイマー・アルバイトでも、週の所定労働時間が20時間以上、雇用期間が1年以上見込まれるなど、一定の条件に当てはまると対象となります。
厚生年金加入者は国民年金の第2号被保険者でもありますので、年金の給付を受けるときには国民年金に加えて厚生年金も受給することができます。
公的年金制度はよく2階建ての建物にたとえられます。基礎となる1階部分が国民年金(基礎年金)で、2階部分が厚生年金です。
自営業者の場合は、基本的に1階部分しかありませんが、任意加入の国民年金基金などで2階、3階部分をつくることもできます。なお、第2号被保険者は、企業が任意で設立する企業年金などで3階部分を上乗せすることも可能です。
被保険者の3つの種類と保険料
公的年金制度の被保険者(保険料を納める人)は、第1号から第3号被保険者の3種類に分けられます。それぞれの保険料もあわせて、整理しました。
第1号 被保険者 |
日本に住む20歳以上60歳未満のうち、第2号被保険者や第3号被保険者以外の人。自営業者や学生、無職の人など。 保険料:所得や年齢に関係なく全国一律で1万6590円(2022年度)(所得が低く保険料の納付が困難な場合には、免除制度や納付猶予制度が設けられている) |
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第2号 被保険者 |
サラリーマンや公務員など厚生年金制度に加入している人。 保険料:給料やボーナスの額の18.3%が保険料として徴収される(国民年金保険料も含む)。なお、そのうち半分を企業が負担する。 |
第3号 被保険者 |
第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者。専業主婦(夫)など。 保険料:第2号被保険者が加入している厚生年金制度で負担するため本人の負担はなし |
もっとも気になる老齢年金の平均月額はいくら?
次は、年金額を見ていきましょう。ここでは老後のお金、老齢年金について説明します。
厚生年金制度に加入したことのない第1号被保険者や第3号被保険者は、基礎年金のみの受け取りとなります。
20歳から60歳までの40年間、保険料を全額納めた場合の満額で月額約6.5万円です。所得による違いはなく定額です。
一方、基礎年金と厚生年金の両方を受け取れる第2号被保険者の平均年金月額は、加入期間や生年月日、在職中の平均収入額によって異なります。そこで、平均を見てみると、65歳以上で男性が約17万円、女性が約11万円となっています(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」令和2年度)。
あくまで平均ですが、第2号被保険者は第1号被保険者や第3号被保険者と比べて、女性は約1.7倍、男性は約2.5倍、年金額が多くなっています。
第2号被保険者 平均月額で男性約17万円、女性約11万円
実際に受け取った年金の平均受給額は、令和元年で基礎年金5万5946円、厚生年金が14万4268円となっています。厚生年金が国民年金の約2.6倍となっており、厚生年金として9万円近く上乗せされているのが分かります。
国民年金(基礎年金) | 厚生年金 | |
---|---|---|
平成27年度 | 5万5157円 | 14万5305円 |
平成28年度 | 5万5373円 | 14万5638円 |
平成29年度 | 5万5518円 | 14万4903円 |
平成30年度 | 5万5708円 | 14万3761円 |
令和元年度 | 5万5946円 | 14万4268円 |
参照:平成30年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」
公的年金についてはこちらを参考にしてください。
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■iDecoとつみたてNISAを徹底比較!老後の資金作りを考える
60~75歳まで自由に選べる受給の開始時期
基礎年金も厚生年金も、受給開始は原則65歳ですが、早めたり、遅らせたりすることができます。
65歳よりも早めることを「繰上げ受給」、65歳よりも遅らせることを「繰下げ受給」といいます。両方とも1か月単位で申請することが可能です。
繰下げ受給
繰下げ受給では、1か月あたり受給額が0.7%アップできます。1年間だと0.7%×12か月=8.4%アップで、70歳まで5年間繰下げると、8.4%×5年=42%アップとなります。
例えば、65歳から受け取っていれば月10万円の年金だった場合、70歳まで繰下げれば、月14万2000円になるということです。
繰上げ受給
一方、繰上げ受給では、1か月あたり受給額が0.5%ダウンとなります(2022年4月から0.4%へ緩和される)。1年間だと0.5%×12か月=6%ダウンで、60歳まで5年間繰上げると、6%×5年=30%ダウンとなります。
例えば、65歳から受け取っていれば月10万円の年金だった場合に、60歳まで繰下げれば、月7万円になります。
さらに2022年4月から、70歳までだった繰下げ受給の年齢が75歳まで選択できるようになりました。つまり、60~75歳までの間で選択可能となったのです。
注意点は、これらの増減額は確定した時点で生涯続くことです。
繰上げ受給をした人が思ったよりも長生きして累積年金受取額が通常の65歳から受給した場合よりも少なくなる、反対に繰下げ受給をした人が想像よりも早く寿命がきて少ししか受け取れない結果になる…。
正確な寿命は誰にもわかりませんから、慎重な検討が必要です。
公的年金の知識を基本にして、人生のリスクについて、そしてその後の人生の楽しみ方について考えていただけるきっかけになれればと思います。
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出版社勤務後、フリーランスのライターに。「難しいお金のことをわかりやすく」を目指して日々勉強中。保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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