
高齢になるほど複数の病気を抱えやすくなり、その分、服用する薬の種類も増えていきます。
その中で気を付けたいのが薬の「副作用」。「飲んだら眠くなった」という軽いものから、ふらつき・転倒・アレルギー反応など生活に影響するもの、なかには生死に関わるケースもあります。
「何に気を付ければいい?」「どんな症状が危ない?」――そんな不安に答えるため、高齢者に多い副作用の特徴と、今日からできる対策をわかりやすく解説します。
1.高齢者に薬の副作用が出やすい理由
副作用とは、薬に期待している効き目以外の作用が出ること、または効き目が強く出すぎてしまうことを指します。若いころは問題がなかった薬でも、加齢による体の変化や薬同士・食べ物との飲み合わせによって、副作用が起こりやすくなるため注意が必要です。
高齢者は若年層に比べて副作用のリスクが高く、その理由はいくつかあります。
加齢による身体機能の低下
薬の効き方は常に一定ではなく、加齢によって変化していきます。
例えば飲み薬の場合、口から飲んだ薬は胃で溶解されて小腸で吸収され、血液に乗って患部に到達し、効き目を発揮します。
そして肝臓で代謝(分解)されたり、腎臓から排泄されたりすることで効き目をなくしていきます。
ところが高齢者になると、この肝臓や腎臓の機能が低下してしまい、代謝や排泄に時間がかかるようになります。これにより、薬が効きすぎてしまうことがあるのです。
血液中のタンパク質が少ない
薬の多くは血液中のタンパク質(アルブミン)に結合して運ばれます。アルブミンと結合している間は作用が抑えられますが、高齢者はアルブミンが減る傾向があり、結果として薬の作用が強く出やすくなります。
多剤服用による相互作用(ポリファーマシー)
複数の薬を同時に服用すると、薬同士が影響し合い、効き目が強く出すぎたり弱まったりすることがあります。これを「相互作用」といい、薬の種類が増えるほどリスクも高まります。
特に高齢者の方は複数の病気を併せ持っていることが多く、服用する薬の種類も多くなりがち。服用する薬が6つ以上になると副作用の発生率が高くなると言われています。
薬と食べ物の食べ合わせ
また、食べ物や飲み物でも、納豆やグレープフルーツ、牛乳などは薬との同時摂取に注意が必要です。
納豆はビタミンKを多く含む食品。心筋梗塞などの治療に使われる「ワーファリン」というビタミンK拮抗薬(ビタミンKのはたらきを抑える薬)と納豆を同時に摂取すると、薬の作用と逆にはたらいてしまい、効果を弱めてしまいます。
グレープフルーツと飲み合わせの悪い薬として代表的なのは、高血圧や狭心症に用いるカルシウム拮抗薬です。グレープフルーツに含まれるフラボノイドという成分が、薬を代謝(分解)する力を弱めてしまうと考えられています。
牛乳は一部の抗生物質(テトラサイクリン系、ニューキノロン系)と相性が良くありません。牛乳に含まれるカルシウムと薬の成分が合わさることで体に吸収されにくくなり、効果が弱まる可能性があります。
一部の漢方薬や市販薬、健康食品の中にも相互作用を起こしやすいものがあるため服用を始める前に薬剤師に確認することが大切です。
薬疹(やくしん)
なかでも薬疹は、ほぼすべての薬品が原因となりうるので要注意。特に解熱薬や睡眠薬、抗てんかん薬などによるものが多く、湿疹や水泡、じんましんなどさまざまな皮膚病変がみられます。入院が必要なほど重症化するケースもあるため、薬を飲み始めたら体調の変化をよく観察することが大切です。
2.こんな症状があったら注意!!

薬の副作用は誰にでも起こるわけではなく、アレルギー体質などの個人差や、飲んだときの体調なども影響してきます。
下記は副作用の一例になります。
催眠鎮静剤(寝つきを良くする薬)
歩行困難、尿失禁、記憶障害、視覚障害 など
糖尿病用薬(血糖を下げる薬)
空腹感、脱力感、冷や汗、ふるえ など
抗うつ剤(気分を落ち着かせる薬)
手足のふるえ、ふらつき、便秘 など
高脂血症用材(コレステロールを下げる薬)
発疹、かゆみ、筋肉痛 など
血圧降下剤(血圧を下げる薬)
ふらつき、転倒、顔面潮紅、頭痛 など
アレルギー用薬(アレルギーを抑える薬)
眠気、ふらつき、口渇、尿閉 など
転倒につながる副作用に注意
高齢者では、副作用がきっかけとなって転倒やケガにつながるケースが少なくありません。特に「ふらつき」「立ちくらみ」は見逃しがちなサインです。
薬の作用が強く出ると、足元がふらつきやすくなり、夜間のトイレや起床直後は転倒リスクがさらに高まります。骨折・入院につながることもあるため、「いつもより歩きにくい」「足元が不安定」と感じたら、早めに医療機関へ相談しましょう。
意識が混乱する“せん妄”にも要注意
一部の薬では、集中力の低下や“ぼんやりする”といった意識の変化があらわれることがあります。 急な混乱、昼夜逆転、落ち着かない様子がみられる場合は、薬による「せん妄」の可能性があります。
3.薬との上手な付き合い方

処方の通りに正しく服用する
薬を自己判断で勝手に多くしたり、症状が軽くなったからといって無断で中止したりすることは大変危険。
治りかけた病気をまた悪化させることもあります。医師から処方された薬は、決められた量・回数・期間を必ず守って服用しましょう。
薬剤師に“飲み合わせチェック”を依頼する
複数の病院に通っていると、同じ成分の薬が重複したり、飲み合わせが悪い薬が処方されることがあります。
薬局では無料で「薬の整理」「飲み合わせチェック」を行ってくれるため、薬が増えてきたと感じたら早めの相談がおすすめです。
飲み忘れ・飲み間違いを防ぐ
高齢者の方は、加齢に伴って目が見えにくくなったり、耳が聞こえにくくなったりすることにより、薬の見間違い・聞き間違いが増えてきます。
処方された通りに正しく服用できるよう、ご本人にとってわかりやすいだけでなく、周囲のサポートする側にとっても管理しやすいよう、下記のような工夫をしていきましょう。
・一度に飲む薬がわかりやすいよう、薬の一包化を医師に相談する
・お薬ケースや服薬カレンダーなどを活用する。
お薬手帳を1冊にまとめ、医師・薬剤師に正確に伝える
薬を処方してもらう際には、医師・薬剤師に自身の病気と薬を全て把握してもらうことが大切です。サプリメントなどの市販薬も含め、正確に伝えましょう。
特に複数の医療機関にかかっている場合には、薬が重複したり増えすぎたりしないよう、お薬手帳を1冊にまとめておくと安心です。
■【薬剤師が教える】お薬手帳の正しい使い方|シニアが確認しておきたい6つのポイント
4.まとめ
新しい薬の服用を始める時に疑問がある場合は、事前に医師や薬剤師に聞いておきましょう。
若い人でもたまに「薬を飲んだか、飲んでないか」分からなくなることがありますよね。持病などで長期に渡り何種類もの薬を服用している高齢者は特に注意が必要。飲み間違いを起こすリスクも高くなります。
ご家族や周囲の人がきちんと服用しているかサポートしてあげてください。
また、薬を飲んだ後に何かいつもと違う症状を感じる時には、服用をやめて薬を処方してもらった病院を受診してください。
筆者:熊戸まこ(くまど・まこ)学習院大学法学部政治学科卒業。IT企業に3年間勤め、退職後はライターとして高齢者の介護や福祉、健康分野の記事を執筆しています。福祉分野の専門性を高めるため、現在は社会福祉士の国家試験を取得しています。
