高齢化が進む現代社会。日本だけでなく、世界中で介護制度のあり方が問われています。
「日本の介護保険は本当に充実しているの?」「他の国ではどんな介護サービスを受けられるの?」——そう感じたことはありませんか?
日本・アメリカ・ヨーロッパ・アジア各国の介護制度を比較し、それぞれの特徴や違いを分かりやすく解説します。
各国の制度から見えてくるのは、文化や価値観の違いだけでなく、これからの日本の介護のヒントでもあります。
高齢化社会をどう支えるか。そのヒントを世界から探ってみましょう。
1.日本の介護保険制度
所得に応じた自己負担が特徴
日本の介護保険制度は、2000年に導入されました。40歳以上の国民が加入し保険料を支払い、高齢者が要介護認定を受けると介護サービスを利用できます。
サービスは訪問介護、施設介護、ショートステイ、デイサービスなど多岐にわたり、利用者の所得に応じて1~3割の自己負担で利用可能です。
また、地域包括支援センターを設置し、地域密着型サービスを強化している点も特徴です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
介護保険制度とは?|その仕組みを詳しく解説
2.アメリカの介護保険制度
多くの人は民間の介護保険に加入
アメリカには、日本のような全国民を対象とする介護保険制度は存在していません。
介護に関する支援は、主に65歳以上を対象としたメディケア(公的医療保険)や、低所得者向けのメディケイドなどが担っていますが、これらは長期的な介護ニーズを十分にカバーできる制度ではありません。
そのため、多くの人は自己資金で介護サービスを利用するか、民間の介護保険(LTC:Long Term Care)に加入する必要があります。また、実際には家族が在宅で介護を行うケースも非常に多く、アメリカの介護は「自己責任」の原則が強く反映された制度設計になっています。
結果として、経済力や家族の支援体制によって、受けられる介護の質や量に大きな差が生じるのがアメリカの現状です。
3.ヨーロッパの介護保険制度
スウェーデン|税金で支える在宅介護中心の高福祉制度
高福祉で知られるスウェーデンでは、高齢者の多くが在宅介護を受け、自立した生活を送れるよう支援されています。財源は税金で賄われ、コミューン(市町村)がサービスを提供します。
2010年の調査によると、9割を超える高齢者が在宅で過ごしていると報告されています。家族介護者支援も充実していて、すべての地方自治体でレスパイトケア(家族介護者のための休養の提供等の支援)が提供されているほか、24時間体制の緊急支援や一時預かりサービスを提供している自治体もあります。
ドイツ|現金・現物給付を選べる介護保険制度
ドイツでは、公的医療保険加入者は公的介護保険に、民間医療保険加入者は民間介護保険に加入することが原則です。
ドイツの介護保険は現金給付が制度化されていて、現金給付と現物給付の両方かいずれかで各介護区分の上限まで給付されます。また、現物給付と現金給付を同時に選択することが可能であり、なおかつ、年齢を問わず要介護状態の人に対して給付されるのも特徴。
近年では、現物給付と現金給付のミックス型の給付を希望する人が増加しています。
イギリス|自己責任が原則の介護制度と家族介護支援
イギリスでは高齢者介護は、第一義的には本人及び家族の責任という考えが前提とされています。そのため、介護費用は全額自己負担が原則。ただし、収入や資産が少ない場合は公的補助が受けられます。
また、一定の要件を満たすことで家族等の介護をする介護者が受給できる給付金や、年金拠出に関する優遇制度があります。自己責任の原則が強い一方で公的支援も存在し、近年では家族介護者への支援も重視されているのが特徴。
4.アジアの介護保険制度
中国
中国の都市部では労働者を対象にした社会保険制度がある一方、介護保険制度は一部の都市における試行実施を除いて整備されていないのが現状です。
政府は「9073」(高齢者のうち90%が在宅、7%を地域、3%を施設でそれぞれ介護を受けるモデル)という方針を掲げていて、在宅サービスや医療・介護連携の推進、高齢者医療・リハビリサービスの発展等に取り組んでいます。
韓国
韓国には「老人長期療養保険制度」という名称の介護保険制度があります。古くから高齢の親の面倒は子どもがみるという儒教的な考えが根付いていましたが、高齢者の増加や核家族化などの課題から導入されました。
日本の介護保険制度が元になっているものの、公的医療保険の被保険者すべてが対象者になっていたり、自己負担割合を高く設定されているなど多くの点で違いがあります。在宅と施設サービス、特別現金給付が提供される点も特徴といえます。
タイ
タイには公的な介護保険制度がありません。そのため、家族介護が中心。高齢者の介護は家族が行うのが一般的です。タイ国家統計局のデータによると、介護提供者は配偶者と子どもが8割を占めていると報告されています。
公的な医療制度は存在するものの、長期的な介護ニーズに対応する制度は未整備で、公的な支援体制の整備が課題となっています。
フィリピン
フィリピンには、日本の介護保険制度のような仕組みはありません。高齢者や児童、障害者等を対象とした福祉サービスは、主に地方自治体を通じて提供されているのが特徴です。
なお、60歳以上の国民に対しては、医療サービスにかかる付加価値税の免除や光熱費の割引などのサービスが提供されています。
また、所得が低い人や単身の高齢者に対しては、政府運営の病院にて無償の医療サービスやワクチン接種などが受けられます。
マレーシア
マレーシアには公的な医療保険、介護保険は存在していません。代わりにあるのが、退職者の所得確保制度となる従業員積立基金(EPF)と従業員社会保障制度(SOCSO)、日本の失業保険にあたる雇用保険制度(EIS)です。
医療制度は比較的整備されていて、公的医療機関であれば少額の自己負担で受診が可能なのも特徴。
家族介護が中心ですが、訪問介護や訪問看護も行われており、メイドを雇ってケアを受ける富裕層が増加しています。
シンガポール
シンガポールには、1980年以降に出生した人は強制加入する介護福祉制度「ケアシールドライフ」があります。67歳になるまで、本人と事業主が保険料を支払う仕組みです。
食事や入浴など基本的な日常行為6項目のうち3項目を自力で行えなくなったと認定された場合、毎月S$600(約5万円程度)が給付されます。
まとめ
介護制度は国ごとに大きく異なり、日本のように全国民に共通する介護保険制度を持つ国は多くありません。
欧米は在宅支援や自己負担重視、アジアは家族介護中心といった特徴があり、日本の介護制度の今後を考えるうえで参考になります。
高齢化が進むなか、各国の制度を参考に、より良い介護のあり方を考える必要があるといえるでしょう。
■参考文献
・ヘルスケア国際展開ウェブサイト「アメリカにおける介護保険制度(1/3)」
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・内閣府「第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2011/zenbun/html/s1-2-clm2.html
・厚生労働省「ドイツ」
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・国立社会保障・人口問題研究所「イギリスの高齢者介護費用負担制度の改革」
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・厚生労働省「第 3 章第 1 節 中華人民共和国( People’s Republic of China) 社会保障施策」
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・ニッセイ基礎研究所「韓国の老人長期療養保険制度の現状と課題-2020年3月現在-」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64119?site=nli
・日本貿易振興機構(ジェトロ) ビジネス情報サービス課 バンコク事務所 「介護事業進出に関する制度・規制 (タイ) 」
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・経済産業省ヘルスケア産業課「タイ/非感染症疾患/介護/3.政策・制度,公的保険制度タイの保険制度と介護提供」
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・独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)「ASEANにおけるヘルスケア制度」