父親が突然歩けなくなり、介護生活が始まる
神奈川県に住む51歳の中嶋さんは、大学生の息子がいるパート勤務の主婦です。85歳になる両親は、高齢とはいえ隣町で二人元気に暮らしています。
ようやく子どもが大学生になり、自分の時間が楽しめるようになった矢先、「父親が歩けなくなった」と母親から連絡が入ります。
しかし、まったく歩けないわけではなく、トイレにはなんとか行けるものの、長時間の立位や歩行が難しい状態になっていました。
父親は以前から腰痛を抱えており、痛み止めを服用していましたが、これまで大きな支障はありませんでした。
医師の診察を受けたところ、「脊柱管狭窄症の初期」との診断を受けます。加齢による筋力低下に加え、脊柱管が狭くなって神経が圧迫されていることが、歩行困難の原因と考えられました。
「そのうち良くなるだろう」と思っていた中嶋さんですが、現実はそう甘くはなく、ここから介護の大変さを突きつけられることになります。
年老いた母親の老々介護の限界
歩けなくなるということは、普段の生活が一変することでもあり、多少のことは同居の母親が世話を焼いてはくれますが、老々介護は力が伴う場面で限界があったのです。
特に困ったのは入浴だったといいます。入浴中に事故が起こると大変なため、年老いた母親一人の時には父親を入浴させず、中嶋さんが実家を訪れた時に入浴介助する形を取っていたといいます。
たまたま涼しい時期だったため、週に数回実家を訪れて入浴介助を行い、他の日は身体を拭く程度にしていました。ですが冬に近づき寒くなるにつれ、父親はお風呂に入りたがらなくなっていき、ふと気がつくと数週間くらい入浴しないことも
実家に行くたびに家の片づけや買い物、食事の作り置きなどをこなすうちに、中嶋さんも日増しに疲労を感じるようになりました。
外部との孤立による父親の行動の変化
そうしているうちに、だんだんと父親の行動がおかしくなっている事に気が付きます。
例えば、目の焦点が合わず空中をボーっと見つめている時が増え、辻褄の合わない事を言い始めたと言います。思えばここ数ヶ月間、人との会話は娘の中嶋さんと母親だけになっていたのです。
同居する母親も疲れて困り果てた様子で、元気がなくなっていることに気づきました。以前なら、何か頼まれると直ぐに対応していた母が「ほっとけばいいのよ」と、素っ気ない態度を取るようになっていきました。
介護の不安をデイサービスが解消
そんな折、心配した親戚が地域包括支援センターに相談に行き、介護相談の約束を取り付けてくれました。
中嶋さんは、「介護を人に任せる事はいけない事だ」という概念があり、自分の親は自分でみると決めていたそうです。また、友人から「高齢の親がデイサービスに行きたがらない」とも聞いていたので、介護は一人で頑張ると思っていたそうです。
ですが、このままでは単純に歩けなくなるだけでなく、認知機能の低下が進んで認知症になるのではないかと不安にかられるようになり、介護相談を受けることにしました。
介護相談でデイサービスなどの選択肢がある事を知る
相談を受けると担当者は、とても感じの良い方で事細かく説明してくれました。例えば入浴であれば、浴室を介助仕様に介護保険で工事可能であることや、訪問入浴サービスなど様々なサービスがあることを説明してくれました。
さらに、中嶋さんのお父様のように外部との交流が少ない方には、認知症予防の観点からも、運動やレクリエーションが充実しているデイサービスが適しているとのことでした。
これを聞いた中嶋さんは、一時は認知症の可能性も考え、医師に相談も検討しましたが、まずは環境を整えることを優先し、父親にデイサービスを勧めてみることに決めました。
思い切って父親にデイサービス利用を切り出す
最初、中嶋さんはデイサービスの説明をするのをためらったと言います。ですが「家まで迎えに来てくれるし、向こうでお風呂にも入れるし、カラオケもできるのよ」と父親が興味を示しそうな内容を盛り込んで話してみると、予想に反して「楽しそうだね」との反応を示し、内心ホッとしたそうです。
その後、体験入会をしたところ、本人も気に入り入会する運びとなりました。
デイサービスのスケジュールは、食事と健康チェックだけは集団で行いますが、あとは各自が自由に過ごせるようになっていました。
以下が中嶋さんのお父様が通っている、デイサービスのスケジュールです。
- 車での送迎
- 朝の健康チェック
- ラジオ体操
- 個人に合わせた軽い運動
- 入浴
- 食事
- レクリエーションまたは、自由行動やお昼寝など
- 車での送迎
もちろん、その日の体調や気分によって、すべて参加せず入浴だけして休憩室で仮眠をする方もいるそうです。
また、レクリエーションもカラオケや麻雀など多数あり、思い思い自由な時間を過ごせます。
デイサービス利用で、歩ける様になり驚きの連続
中嶋さんは振り返るとデイサービス入会後は、わずか数カ月間で回復をしてビックリしたといいます。あんなに歩けなかったお父様が、杖を使って歩けるようになったのです。
デイサービスでの軽い運動や、入浴による血行促進が功を奏したのかもしれません。
「私も母も素人だったので 父が転んだらどうしようと怖くて外出を控えてました。これも良くなかったのだと思います」。
そして、お母様の態度も穏やかになり、一年間経った今では散歩や買い物を楽しめるまでになったと嬉しそうに語ります。
足の異変を介護のプロが察知
デイサービスに通い始めてすぐ、デイサービスの方から「お父様の足に傷があるので医者に行くように」と言われたのです。それはかなり前に転んだ時の傷で、医師から「なぜこんなになるまで、放っておいたの、下手をしたら入院ですよ!」といわれ実際に治るのに数ヶ月かかったと言います。
腰痛の痛み止めの薬を飲んでいたため、転んだ時の傷に周囲も本人も気がつかなかったのです。中嶋さんも転んだのは知っていましたが、絆創膏が貼ってあったので擦り傷だろうと気にも留めていなかったと言います。
「あの時デイサービスに通っていなかったら、知らずに傷が進行して入院だったかと思うとゾッとします。こんな風に素人が見落としてしまうようなことも連携してくれるので、デイサービスは本当にありがたい存在です」と語ります。
無理せずに介護サービスを利用するコツ
今回はデイサービスが成功したケースをご紹介しました。それとは裏腹にデイサービスに苦手意識を持つ方もいらっしゃると聞きます。その原因を辿っていくと集団で行動するのが苦手だったり、新しい環境が不安だったりという問題が浮上してきます。
そういった場合は無理強いせずに、どうやったら今までの様な生活ができるのかを一緒に考えて行くことも大切です。
例えば、入浴でしたら訪問入浴サービスや浴室を介助仕様に工事するといった選択もあります。また、デイサービスも一日中フルで利用する必要もなく、入浴時だけの利用という方法もあります。
介護は一人で抱え込まず、時には外部のサービスを上手に利用していくことが成功の秘訣なのかも知れません。もし悩まれていることがありましたら一歩を踏み出すきっかけとして、専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
(取材・文:加藤あや子)
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