この連載ではさまざまな「施設入居をどうすすめたか、納得してもらったか」の体験談をご紹介しています。
今回は自宅介護をしてきた女性が認知症の母親を施設に入居させるまでの体験談です。これまでご紹介してきた体験談と少し違うケースですが、参考にして頂ければと思います。
体験談からわかった「自宅介護から施設入居へのポイント3つ」
- 自宅介護を始めた時点で施設入居についても話し合っておく
- 本人の意思が確認しづらい場合には介護者の負担を考慮し判断
- 認知症が進んだ場合には施設へ相談・連携することも必要
次第に重くなる自宅介護の負担、施設の担当者に相談しながら入居を進めた(Oさんのケース)
ご家族のプロフィール
・Oさん(53歳/女性)
・埼玉県在住、姉ふたりは結婚し地方住まい、Oさん自身は実家を改装しネイルサロンを経営。母とふたり暮らし。施設入居のタイミングは母が82歳。
最初は「介護を介護と思わなかった」
Oさんは20代で結婚したものの数年で離婚、実家に戻り母親と暮らしてきました。38歳の時に自分の貯蓄で自宅を改築、ネイルサロンを開きました。
母親の足が多少不自由になったのが70代半ば。この時、Oさんが負担し、母親の部屋を1階にし、手すりをつける改装も行いました。
「思い返すと、その時点ですでに介護は始まっていたのです。でも当時はまだまだ元気でしたし、年相応だと思っていました」
ところが、それから少しずつ、ボケの症状が出るように。買い物にでかけたのに何も買わずに帰宅したり、長く通っている美容院に前日行ったにもかかわらず、数日後に訪れることがあり、美容院から連絡があったことも。
「ただ、しっかりしている時はとてもしっかりしているんです。私も仕事が忙しく、もうすぐ80歳になるのだから忘れっぽくなるのはしかたないと思いこんでいました」
「ところが、ある日、夜中に音がするので台所へ行くと、母が冷蔵庫からいろいろと出して、パンにジャムをぬって食べながら、インスタントラーメンを作ろうとお湯を沸かしているのを見て本当に驚きました」
ようやくOさんはこれは普通ではないと考え、病院へ。そして母親は認知症と診断されました。
施設入居か、自宅介護か迷い続ける日々
それからOさんの本格的な介護が始まります。役所で手続きをし、要介護認定を受け、ヘルパーさんも頼みました。
しかし、母親の状況は80歳を過ぎた頃から明らかに悪くなっていきます。
「自宅介護の難しさは、最初はなんとかなると思い、それから少しずつ状況が難しくなっていくこと。いきなり悪くなるわけではないので、どこで自宅介護を断念し施設へ入れるべきかの判断がしづらくなってしまうんですよ」
夜中に起こされることも続けば、Oさんも「明日こそ施設入居のために相談に行こう」と思うのですが、翌日、Oさんのために朝食を用意し、洗濯をして笑顔で話す母親を見れば「もうちょっと先でもいいか」と思ってしまう。
ただ自分で考えていた以上に、積もり積もっていた介護の負担は大きくなっていました。
老人ホームの担当者に相談
本格的に施設を探し、介護付き有料老人ホームや認知症でも入居できるサービス付き高齢者住宅を見学したのもその頃です。
ところが母親に話すと「私はボケていない」「認知症なんかじゃない」と烈火のごとく怒り出しました。
オムツをはいても勝手に脱いでしまう、トイレ以外の場所で排泄する、通っていたヘルパーさんからも「もし自宅介護を続けるのなら、自費でまかない全面的にサポートしてくれる人を雇わないと、あなたが倒れます」と言われたそうです。
さらに問題をややこしくしたのは、ふたりの姉でした。
長女はこれまで親の世話をしてきたのだからOさんに任せるとのことでしたが、次女は「実家はOちゃんのものになってるのも同然でしょ。だとしたらお父さんが残した貯蓄には手をつけないで。それは姉妹でいずれ分けるもの」と言うではありませんか。
「次姉を母は特に可愛がっていました。それで何か気に入らないことがあると、この姉に電話をして、私がまるで虐待でもしているかのように話をしていたようなんです。認知症の症状を知らない姉たちは、くるくる性格が変わる母のことがわからないのです」
この時、施設の担当者が親身になって相談にのってくれたのだとか。
「たとえば姉たちにも介護の実態を見てもらい、母親の状況を理解してもらう。その上で母親と一緒に見学や食事にだけでも来てみたらどうか、といったような具体的なアドバイスは、混乱していた私にとって本当に助かりました」
「少しの間だけ」と母親にショートステイを体験してもらう
そこで長女が戻ってきて、1週間ほど泊まり込み、はじめて「母親の状況」を把握したそうです。
長女が中心となって入居の手続きを進めました。しかし、母親は「自宅で過ごすことになりました」と勝手に施設へ断りの連絡までしていたのです。認知症ではこのように普段の混乱した態度からは想像できないほど、明晰な行動を起こすことがあります。
「それでも施設の担当者はこのようなこともよくありますよと言って下さったんですよね。とにかく、まずはショートステイをする、そのまま入居という方法もあると」
この間には、長女と次女が施設入居についてやり合うこともあり、末っ子のOさんは神経が細る思いで、過呼吸で倒れ救急搬送されるという事態に。長女もずっと家をあけるわけにはいかず、真ん中の姉が来て、そこで初めて、次姉も母親の自宅介護は難しいことに納得したそうです。
そうなると次姉は行動的で、「Oちゃんは入院治療が必要なんだって」と嘘も方便で母親を説得、「家に誰もいなくてお母さんの世話ができないから、入院の間だけはこの前見学したホームで過ごしてちょうだい」と母親をショートステイに連れていきました。
自宅介護は余裕がなくなる前に施設入居についても話し合っておこう
母親は次姉に押される形でショートステイをしますが、スタッフの方の対応もよく、「なんだ家よりココのほうが居心地がいいね」などと手のひらを返したように、機嫌よく過ごしていたそう。
そのまま、結果的に老人ホームに入居、ただし経済面についてはその後も姉妹三人で話し合いを重ね、なかなかうまくまとまらなかったそうです。
「兄弟姉妹がいて、ひとりが介護をするのであれば、最初から何らかの取り決めをしておいたほうがいいのだと後から思いました。最初の時点で家族で話し合っておくべきだった」
老人ホームの担当者が認知症の方が入居するまでのステップを具体的に提案してくれたこと、ひとりで背負いがちなOさんの相談相手にもなってくれたことで、なんとか入居にこぎつけたとOさんは言います。
「認知症が進むと本人はもちろん、介護する側も余裕がなくなり、施設入居という手続き自体が面倒になってしまう。説得以前の問題です。認知症とわかり自宅介護を選択したら、最終的にお世話になるかどうかは別にしても、施設について調べ本人や身内ともきちんと話し合っておくことが何より大事だと思います」。
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主に教育・ライフスタイルを中心に執筆するフリーライター。自身の介護経験と親世代・子世代両方の視点から取材を行いリアルな声を届ける。サードエイジ世代の新しい暮らしと50代からの豊かな人生を求めて模索中。
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2021年12月24日