高齢者は、転倒しないように気をつけていても、ふとした瞬間にバランスを崩して転んでしまうことがあります。「高齢の親がよく転ぶようになって心配」「一人暮らしで転んだらどうしたらいい?」と不安をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
この記事では、看護師である筆者が、実際に関わった高齢者の転倒事例と対処法から、転んでしまった後のために備えておきたいポイントについてお伝えします。
1.高齢者の転倒はなぜ起こりやすいのか
高齢者の転倒は、主に加齢による身体機能の低下、薬物による影響に加え、潜在的に危険な環境や状況がある場合に起こります。
例えば、視力障害や足の感覚不良がある場合、目の前にあるコードにつまづいて転倒する可能性が高くなるでしょう。夜間の不十分な照明、滑りやすい床や畳、段差など潜在的に危険な環境は、高齢者がバランスを崩しやすくなる要因の1つです。
血圧を下げる作用のある降圧薬や利尿剤などを使用している場合、めまいやふらつきなどが起こり、転倒リスクが高まります。
2.【経験談】高齢者の転倒事故の実例
私は現在、整形外科の病棟で働いています。高齢患者さんが転倒して骨折に至った理由を、自宅と屋外に分けてご紹介します。
自宅の中で転倒したケース
自宅の中で転倒した理由は、次のようなものがあります。
・トイレに行く途中で転んだ
・ベッドから落ちた
・洗濯物を干す時にバランスを崩した
・家の中の段差につまづいた
自宅のちょっとした段差につまづいたり、手すりがなかったりすると、高齢者が転倒する原因につながりやすくなります。
また、睡眠薬を飲んで夜中に目が覚めた時にベッドから滑り落ちたり、ふらついたりするケースがあります。転倒ではないのですが、ベッドと壁の隙間に挟まったまま動けない状態で発見された方もいらっしゃいました。床ずれができ、脱水・横紋筋融解症になったケースです。
転倒によって骨折するケースがほとんどで、手術後、自宅環境を整えるための話し合いを設け、退院日を迎えます。1人で自宅での生活を送れる状態まで回復せず、老健などへ入居される方もいらっしゃいます。
転倒防止のためには、日常生活動作が行える筋力の維持だけでなく、手すりの設置や段差のスロープ設置、ベッド柵の設置など、自宅環境を見直すことが必要です。
屋外で転倒したケース
屋外で転倒した理由には、次のようなものがあります。
・犬の散歩で排泄物の処理をしてふらついた
・駅の構内でぶつかられた
・観光途中に砂利道や山道で転んだ
・スロープの角度がきつくてふらついた
特に、地面の近くから立ち上がる際、つかまるものがないためふらつき、転倒につながりやすくなります。砂利道やスロープなどはバランスを崩しやすく、転倒のリスクが高いといえるでしょう。
また、駅の構内は急いでいる人が多く、高齢者を気遣っている余裕がないのかもしれません。
屋外で転倒するケースではコンクリートや固い地面にからだをぶつけてしまうため、骨折に直結しやすくなります。股関節や腰椎、手首などを骨折し、手術を受ける高齢者は少なくありません。
「自分は大丈夫」と過信せず、転倒するリスクがあるんだと自覚することも転倒防止の第一歩になります。草むしりや犬の散歩を業者に任せたり、犬の散歩では壁の近くで排泄するよう誘導し、立ち上がりやすい工夫をしたりするのも1つの方法でしょう。
外食先のお店の入り口で、高齢者の転倒に遭遇したことがあります。スロープでふらつき、後頭部を打撲。握りこぶしほどの血腫ができていましたが、幸い声をかけると返答はしっかりできます。通りかかった人が店員に声をかけ、救急車を呼んでくれました。
真夏の日差しが強く、コンクリートの上では脱水になってしまうリスクがあります。数人の男性に声をかけ、なるべく体を動かさないように店内へ移動してもらいました。
救急隊が到着するまで、保険証やかかりつけ病院の診察券などを見せてもらい、糖尿病の治療中だと分かりました。救急隊が到着した際、転倒して食事をとっていないため、低血糖になるリスクがあることを伝えました。
このケースのように、外出時に転倒してしまうと、万が一意識がなくなった場合、既往歴などを聞き出せません。なるべく保険証・診察券・お薬手帳や介護保険証などはセットにして持ち歩いていた方が安心だといえるでしょう。
3.高齢者の転倒後の対処法
高齢者が転倒した後の対処法は、以下3つです。
- 頭部打撲がないか確認する
- 起き上がれない場合は救急車を呼ぶ
- 症状がなくても診察を受ける
まず第一に、頭部打撲がないか確認しましょう。頭部打撲があると頭の中で出血が広がり、命に関わる恐れがあるためです。呼びかけに反応がない、呂律が回らない、眠り込んでしまうといったような症状があれば、動かさず、すぐに救急車を呼びましょう。
転倒による骨折も考えられます。骨がずれてしまうリスクがあるため、無理に動かさないことが大切です。起き上がれない場合は救急車を呼びましょう。
一人暮らしの高齢者の中には、転倒したまま起き上がれず、数日経過してご家族やヘルパーに発見されるケースがあります。数日経過していると、床ずれ(褥瘡)や脱水、低体温、肺炎、横紋筋融解症(腎障害・腎不全などを引き起こす筋肉の崩壊)などを引き起こしていることがあります。動かさず、すぐに救急車を呼ぶようにしましょう。
転倒したあと、症状がなくても診察を受けることをおすすめします。自覚がなくても骨折していたり、頭の中で出血がじわじわ拡がっていることがあるためです。特に血が固まらないような抗血栓薬を飲んでいると、出血が止まらないリスクが高いため注意が必要です。
4.高齢者が転倒してしまった時のために備えておきたいポイント
高齢者は、いくら予防していても転倒することがあります。万が一、1人で転倒してしまった時のために備えておきたいポイントは、以下2点です。
・転倒後の連絡方法を準備しておく
・保険証などを持ち歩く
転倒しても手の届く場所に電話を設置しておきましょう。緊急連絡先はいつでも目の届くところに置いておくことが大切です。また、セキュリティ会社などの見守りサービスや、外部警備会社へ通報する緊急通報端末を利用するのも安心安全な方法です。
転倒後、万が一意識がなくなったり、外出先で転倒した時でも病院を受診できるよう、保険証、お薬手帳、介護保険証、これまでの病歴などをまとめておくと良いでしょう。
まとめ
高齢者の転倒は、予防していても避けて通れないものです。万が一転倒した場合に慌てないよう、備えておくようにしましょう。
正看護師歴26年。都内の総合病院(循環器内科・脳外科・ICU・CCUなど)や個人病院で勤務。出産と子育て・転居をきっかけにパート勤務へシフトし、在宅Webライターとして活動中。これまでの知識や経験を活かし、情報発信中。twitter・ポートフォリオ
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