認知症の人は、「それは違う!」と思うような嘘をつくことがあります。意固地になるので、「違う!」「違わない!」と周囲の人とケンカになることも。
なぜそんな嘘をつくのでしょうか。実は本人は嘘をつきながら、不安でいっぱいなのです。
その心の中をじっくり探り、家族にとっても本人にとっても良い対応法を考えてみましょう。
≫家族がカーッとする認知症の人の言葉
≫言い返すのがうまく認知症だと思えない嘘
≫「取り繕い」はアルツハイマー病の初期にみられる
≫実は不安と恐怖でいっぱい
≫心を鎮め一緒に解決を考えよう
≫イライラは本人ではなく、だれかに聞いてもらおう!
家族がカーッとする認知症の人の言葉
物忘れをするようになった初期の頃の人は、自分が忘れてしまうことをなんとか隠し、「自分はきちんと生活ができているのだ」と人に強調したいものです。
けれど、認知症ゆえに、つじつま合わせがうまくいきません。だから、以下のような会話がよく起こります。
本人「財布(または通帳など)がない。ここに入れたはずなのに」
家族「違うところにしまい忘れたんじゃない?」
本人「いや、そんなことない。だれか盗ったんじゃない?」
家族「それ、どうしたの? 自分の持ち物ではないよね?」
本人「あ、これ、隣の〇〇さんがくれたのよ」
また、本人が近所の人に「うちの家族、最近、私にごはんを作ってくれない」、こんな嘘を言うことがあります。しかも、多くの場合、家族に向けての嘘。
明らかな嘘ですし、「自分のせいではない」と主張するので、家族はカーッときて「そんなこと、するわけないでしょ!」と怒鳴りたくなります。
言い返すのがうまく認知症だと思えない嘘
一方で、忘れていることをうまくカバーして切り抜けることもあります。
家族「今日は祝日だけど、何の日か覚えてる?」
本人「今忙しいから、ちょっと待って」(どこかに行ってしまい、答えない)
受診中の医師が「今朝の朝食、何を食べたか覚えていますか?」
本人「最近食が細くなってねぇ」(本人は食べたことも覚えていない)
近所の人「どんなテレビ番組がお好きなんですか?」
本人「最近は、あんまりテレビを見ないからねぇ」
こんな「うまい」受け答えだと、家族や周囲の人、医師までも、いったんは「そうか、そうか」と納得してしまいます。
何回も重なったところで、「あれ、これって、質問に答えてない。覚えてないのに取り繕っているのかな?」とようやく気づくことも多いのです。
「取り繕い」はアルツハイマー病の初期にみられる
こうした認知症の人の受け答えは、「取り繕い反応」と呼ばれています。
取り繕い反応は、認知症の中でもアルツハイマー病の方に特に多くみられるそうです。
アルツハイマー型の認知症は、一般に記憶障害を伴います。しかし、初期の頃は、コミュニケーション能力が維持されているので、その力を使って、記憶障害を自分でカバーしようとする。
それが「取り繕い」という形として表われるのです。
実は不安と恐怖でいっぱい
なるほど、嘘をつくメカニズムは理解できます。でも、やはりイラッとしますよね。
あり得ないことを涼しい顔で言ったり、自分が忘れているのを家族のせいにしたり。とにかく、自分の非を認めません。
「忘れたなら忘れたって、素直に言えばいいじゃない!」
「間違えたなら、ごめんって言えばいいじゃない!」
そう思うのも、もっともです。
認知症の高齢者は、なぜ、こんな取り繕いを重ねるのでしょうか。専門家は、こう言います。
・なんとか取り繕いで記憶障害をカバーし、不利な立場に立たないようにしたいから
・認知症であるジレンマを自ら軽減したいとする努力
認知症だということが周囲にわかると、急に周囲の人の態度が変わります。その瞬間を何度も見てきた本人だからこそ、取り繕いたいのです。
その心の深い部分には、自分が認知症であることを否定したい思いがあります。
かといって忘れてしまうことが多くなり、確実に認知症が進行しているのを自覚し、不安や恐怖でいっぱい、現実に押しつぶされそう、という心理もあるでしょう。
実は、意固地になりながら、嘘をつきながら、心の中は不安や恐怖でいっぱいなのです。
もの忘れ、怒りっぽい、言い訳したり嘘をつく、最近、ちょっとおかしな言動が増えた。そんな場合は認知症の疑いがあるかもしれません。
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心を鎮め一緒に解決を考えよう
そう考えると、「取り繕い」などという言葉を使うこと自体、本人に失礼ですし、優しくありません。
一生懸命に病と闘っているからこその嘘。そして、ごまかすこと自体が認知症の症状のひとつでもあると考えたら、言い争いは徒労です。
むしろ、家族として、不安や恐怖を取り除いてあげたほうがよさそうです。
「そうなんだね」「なるほどね」と、一度は本人の言い分を認めてあげましょう。
そして、通帳がないときは「一緒に探そう」、自分のものでないものを持って帰ってきてしまったときは「だれのものだか、調べてみようか」などと言ってあげられればベストです。
家族よりもだれよりも、実は本人が不安で困っている。その気持ちを汲んで寄り添い、解決を手伝ってあげるのが理想です。
イライラは本人ではなく、だれかに聞いてもらおう!
とはいえ、毎日繰り返される嘘や言い逃れに、いつもニコニコしていられるわけではないですよね。家族の側も体調が悪いときもあれば、心の調子が悪いときもあります。
そんなときは、できるだけ本人にぶつけず、パートナーや、心を開いて話せる仲良しの友達などに「ごめん、ストレスでいっぱいだから話を聞いて」と頼んで、聞いてもらいましょう。
「もー、ホントに腹立つ!」
「ときどき本気で殴りたくなるのを、なんとか抑えているわ」
人には言えないホンネもどんどん吐き出して、心を晴らします。
あるいは、「高くてがまんしていたあの店のケーキを食べる」「スパに行ってキレイになる!」など、たまには自分にごほうびをあげてもいいですよね。
認知症の人の切ない心理、なんとかがんばって、受け止めてあげましょう。
参考:No.9-不利なことを認めない-見事にごまかすのも症状 | 公益社団法人認知症の人と家族の会 (alzheimer.or.jp)
アルツハイマー病の外観応答を保存する典型的なコミュニケーションパターンはありますか? (plos.org)
(グッドライフシニア編集部 三輪)
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